→『第4回:透湿防水シートの排水と透湿のメカニズム』を振り返る
「熱」を扱う現場の懸念:自然発火のリスク
発酵熱乾燥は、外部エネルギーを使わずにチップの水分を下げる効率的な手法ですが、現場の管理者が最も懸念するのは「熱による火災リスク」ではないでしょうか。木質チップを高く積み上げれば内部に熱がこもり、それが原因で自然発火するのではないかという不安は、実務において避けては通れない問題です。
特に近年、国内のバイオマス発電所において燃料保管・搬送設備での火災事故が発生しており、経済産業省からも事故防止に向けた注意喚起や技術基準の検討がなされています。行政の報告書では、事故の原因として粉じん爆発や摩擦熱と並び、「バイオマス燃料の発酵による発熱」への対策が重要視されています。今回は、安全に運用するための「温度管理」について解説します。
発酵熱の限界と注意すべき温度
まず、通常の「発酵」による熱と、火災につながる「酸化反応」による熱を切り分けて考える必要があります。
多くの現場で目にする発酵熱は、微生物の活動によるものです。第5回で触れた通り、チップ山内部の温度は通常60℃〜70℃程度まで上昇します。微生物は80℃を超えると活動が鈍くなるため、生物的なプロセスだけで発火点(400℃以上)に達することはありません。
しかし、注意しなければならないのは、温度がさらに上昇して「105℃」を超えたときです。
木材の引火点は約250℃、発火点は400℃以上ですが、火災に至るプロセスで重要な基準値は、酸化反応による発熱が始まる「105℃」付近にあります。温度がこのラインを超えると、生物的な発熱から化学的な「酸化反応」へとフェーズが移行します。酸化反応が始まると、外部から熱を加えなくても自ら熱を出し続け、加速度的に温度が上昇する状態に陥ります。この状態を放置すると山の内部で炭化が始まり、最終的に発火へと至るのです。

行政が求める安全対策の実態
経済産業省が発行したバイオマス発電所における事故対応資料では、発酵や摩擦熱を検知するための具体的な措置が例示されています。発電所のような大規模施設だけでなく、チップを保管・乾燥させる現場においても、以下の対策が有効です。
- 温度測定装置の設置
内部温度を定期的、あるいは継続的にモニタリングすることは安全管理の基本です。中心部が80℃を超え、100℃に近づくような兆候がないかを監視します。 - 異物混入の防止
金属片などの異物が混入すると、重機による作業時などに火花が発生したり、局所的な摩擦熱を生んだりする原因となります。これらが酸化反応の「種火」になるリスクを排除しなければなりません。 - 粉じんの管理と清掃
乾燥が進んだチップからは微細な粉じんが発生します。粉じんが堆積した状態で熱がこもると、火災が拡大しやすくなるため、適切な清掃と管理が求められます。
透湿防水シートによるリスク低減
透湿防水シートを用いた乾燥手法は、安全管理の面でも合理的な仕組みと言えます。
- 水分の均一化
シートによって雨水の浸入を防ぐことで、山内部の「極端に濡れた部位」をなくします。水分の偏りは異常な発酵や局所的な蓄熱を招く要因となるため、全体を均一に乾燥させることがリスク低減につながります。また、再加水が行われないので、一度発酵が収束すると、熱が落ち着く傾向があります。 - 通気性の確保
シートで覆える形状の山を作成することにより、内部への適切な通気性を確保する効果があります。通気性の確保により、山内部の温度を一定にコントロールすることができます。しかし、山の作成時にシート数枚で覆える山よりも高くチップを積み、重機等で転圧すると通気性が確保されず、内部温度が危険域まで上昇する原因となります。
実務における判断基準
実務上は、中心温度が80℃を超えないことを一つの運用基準とします。もし80℃を超える上昇が見られた場合は、速やかに山を切り返して放熱させ、105℃の危険域に到達させないことが重要です。
まとめと次回の予告
第5回では、発酵熱乾燥における火災リスクの本質が、微生物活動そのものではなく、その先の「105℃からの酸化反応」にあることを解説しました。行政のガイドラインに沿った適切なモニタリングと、シートによる適切な水分管理を行っていれば、自然発火のリスクは十分にコントロール可能です。
安全な運用のための理論が整理できたところで、次からは「いかに効率よく現場を回すか」という実務編に入ります。次回の第6回では、シートの展張や固定、山の作り方など、具体的な「運用方法」のコツを詳しくご紹介します。
※本記事は、令和3~5年度 林野庁補助事業「地域エコシステム」技術開発・実証事業の成果報告、および経済産業省「バイオマス発電所における爆発・火災事故及びその対応について」に基づき構成されています。

