→『第6回:発酵熱による発火リスクと温度管理の実態』を振り返る
乾燥の代償としての「目減り」をどう捉えるか
発酵熱乾燥は、チップ自体に含まれる有機物を微生物が分解する際に発生する熱を利用して、水分を低減させる手法です。ここで実務担当者が直面する懸念は、「乾燥のためにチップが消費されて目減りしてしまったら、燃料としての価値が下がってしまうのではないか」という点です。
確かに、微生物の呼吸によって炭素が消費されるため、乾燥後のチップの全重量(絶乾重量)は、開始時よりも減少します。しかし、当社の実証試験データに基づくと、この「目減り」は燃料の質を高めるための「必要な投資」であると整理できます。今回は、有機物損失の実態と、燃料としてのエネルギー量の変化について解説します。
データで見る有機物損失:C/N比との深い関係
当社の実証試験では、チップの特性(樹種や部位)によって有機物損失の度合いが異なることが明らかになっています。ここで重要な指標となるのが「C/N比(炭素窒素比)」です。
- C/N比が低い材料(枝葉など)
微生物の栄養源となる窒素分が多いため、発酵が活発に進みます。その結果、内部温度が大きく上昇し、高い乾燥効果が得られる一方で、有機物損失率も高くなる傾向があります。試験では、枝条由来のチップで月間数%〜最大7%程度の損失が確認されました。 - C/N比が高い材料(全幹材など)
発酵が緩やかなため温度上昇は控えめになり、有機物損失も1〜3%程度と低く抑えられる傾向にあります。
このように、温度上昇(=乾燥の推進力)と有機物損失(=目減り)は相関関係にあります。「よく乾く条件ほど、一定の目減りも伴う」という物理的な特性を理解することが、適切な運用管理の第一歩となります。
水分低下による「低位発熱量(LHV)」の向上
目減りという「マイナス」がある一方で、水分が低下することによる「プラス」の効果はそれを上回ります。燃料の価値を測る「低位発熱量(LHV)」に注目してみましょう。
生木チップは、燃焼時に自らの水分を蒸発させるために熱エネルギーを浪費してしまいます。しかし、発酵熱乾燥によって水分が下がると、チップ1m³あたりの有効な熱量は15%高まります。
- 水分50%の生チップ:発熱量は約660kWh/m³
- 水分25%まで低下したチップ:発熱量は約770kWh/m³
たとえ乾燥プロセスで有機物が5%目減りしたとしても、水分が25%低下すれば、燃料全体から取り出せるエネルギー密度の大幅な向上により、トータルのエネルギー価値はプラスへと転じます。
効率的な乾燥が「無駄食い」を防ぐ
有機物損失を最小限に抑えるためには、短期間で効率よく水分を下げることが肝要です。
透湿防水シートを用いた管理は、雨による再加水を防ぐことで「乾かないまま発酵だけが続く」という状態を回避します。水分が一定以下(30~20%程度)になると微生物の活動が自然に抑制されるため、シートで適切に水分を管理することは、エネルギーの「無駄食い」を防ぎ、高品質な燃料を安定して製造することに直結します。
まとめと次回の予告
第7回では、発酵熱乾燥における「目減り」と「熱量」の損得勘定について解説しました。有機物損失は、いわば「自己乾燥のための燃料代」です。試験データが示す通り、適切な管理下では、目減りによる損失をはるかに上回るエネルギー密度の向上と、燃焼効率の改善という大きなメリットが得られます。
次回、第8回では、今回触れた「C/N比」についてさらに深掘りします。材料の選び方や、発酵をコントロールするための科学的なアプローチについて詳しくお伝えします。
※本記事は、令和3~5年度 林野庁補助事業「地域エコシステム」技術開発・実証事業の成果報告に基づき構成されています。

