→第8回『【生物学的指標】:乾燥効率を左右する「C/N比」と微生物の働き』を振り返る
「乾いた気がする」を数字で語る
発酵熱乾燥の現場では、「シートをかけてしばらく経てば乾く」という経験則がある程度共有されています。しかし、実際にどのくらいの期間で、どの程度まで水分が下がるのか——この問いに数値で答えられなければ、出荷計画も品質保証も立てられません。今回は、3カ年の実証試験で得られた水分推移のデータをもとに、乾燥スピードを客観的に評価していきます。
乾燥は「最初の1カ月強」で大きく動く
まず注目すべきは、乾燥が一定のペースで進むのではなく、序盤に集中して進行するという点です。
枝条・広葉樹の破砕チップ(D山)の温度・酸素濃度の推移を見ると、7月に内部温度が60〜70℃まで上昇し、酸素濃度も大きく変動しています。これは微生物による分解が活発に進んでいる時期です。一方、8月以降は温度・酸素濃度ともに変化が小さくなり、分解が終息に向かったことがわかります。データからは、夏季においておおよそ1カ月強で乾燥が概ね完了していたと読み取れます。
つまり、発酵熱による乾燥は「ダラダラ続く」のではなく、発酵が活発な序盤で一気に進み、その後は緩やかになるという挙動を示します。この特性を理解しておくと、無駄に長い保管期間を設定せずに済みます。

チップ種類で乾燥スピードは明確に分かれる
7月〜12月の水分推移を試験区ごとに比較すると、チップの種類による差がはっきりと表れました。
針葉樹の同一皆伐材から得た3種(袖ケ浦A〜C山)では、枝条(C)>全木(B)>全幹(A) の順で乾燥度合いが高くなっています。これは前回までに触れたC/N比の違い、すなわち発酵熱の出やすさを反映した結果です。発酵が活発な枝条チップほど、水分の減少幅が大きくなりました。
具体的な数値で見ると、枝条・広葉樹のD山では水分(W.B.)が初期44%台から最終23〜26%へと、含水率(D.B.)換算で40〜50ポイント以上低下しました。一方、全幹・針葉樹のA山は最終的に水分39%台にとどまっています。同じ期間・同じ環境でも、原料の性質によってこれだけの差が生じるのです。

季節をまたいで見える「到達点」
3カ年のデータを整理すると、季節ごとの到達水準も見えてきます。針葉樹の全幹チップは冬季には乾燥が進みにくく、夏季でもM45(水分45%区分)程度が一つの目安となりました。対して枝条チップは、夏季で最短1カ月強、冬季でも5〜6カ月でM25まで到達しています。
こうした「いつ始めて、何カ月で、どの規格まで届くか」というグラフ上の軌跡こそが、出荷計画の根拠となる客観的な指標です。経験則を数値の裏付けで補強することで、年間の乾燥回転数を見積もることも可能になります。
まとめと次回の予告
水分推移グラフは、発酵熱乾燥が「序盤に大きく進む」「チップ種類で速度が分かれる」という二つの特性を客観的に示してくれます。これらを把握しておくことで、過不足のない乾燥期間の設定が可能になります。
次回は視点を変え、同じチップでも「チップ山の形状」によって乾燥の進み方がどう変わるのかを取り上げます。三角形と台形、シートのかけ方の角度——形状が乾燥に与える影響を、実証データから読み解いていきます。
※本記事は、令和3~5年度 林野庁補助事業「地域エコシステム」技術開発・実証事業の成果報告に基づき構成されています。

