なぜ「よく乾く山」と「乾きにくい山」があるのか?
第7回では、チップが乾燥する過程で発生する「有機物損失(目減り)」と、それに伴うエネルギー密度の向上について解説しました。その中で、チップの「樹種や部位」によって発熱のしやすさや目減りの度合いが異なることに触れました。
現場で実際に発酵熱乾燥を行ってみると、数日で一気に60℃以上まで温度が上がる山もあれば、30℃前後で留まる山もあることに気づくはずです。同じように透湿防水シートを被せ、同じように山を作ったのになぜ違いが出るのか。その答えは、乾燥の主役である「微生物の食事事情」にあります。今回は、乾燥効率を科学的に読み解くための指標「C/N比(炭素窒素比)」について解説します。
→『第7回:発酵によるチップのエネルギー量の変化』を振り返る
微生物の活動に関係する「C/N比」とは
C/N比とは、有機物に含まれる「炭素(Carbon)」と「窒素(Nitrogen)」の割合を示す数値です。この比率は、微生物が活発に活動(発酵)できるかどうかに関係すると示唆されています。
微生物にとって、炭素と窒素は以下のような役割を持っています。
- 炭素(C)
エネルギー源:人間にとっての「糖質」や「脂質」のようなもの。これを消費(呼吸)することで熱を発生させます。 - 窒素(N)
体を作る材料:人間にとっての「タンパク質」のようなもの。微生物が細胞分裂して増殖するために不可欠です。
微生物が爆発的に増えて高い発酵熱を出すためには、十分なエネルギー(C)とともに、体を作る材料(N)がバランス良く存在している必要があります。一般的に、微生物が最も活発に活動できるC/N比は20〜30程度(窒素1に対して炭素20〜30)と言われています。
部位によって大きく異なる木材のC/N比
ところが、木材という物質は全体的に極めて炭素が多く、窒素が少ない(C/N比が高い)という特徴を持っています。しかし、木材の「部位」によってその比率には大きな差があります。
- 枝葉や樹皮(バーク):C/N比 約40〜100
成長点である枝葉や、養分が通る樹皮には窒素が多く含まれています。微生物にとっては「栄養満点のごちそう」であり、猛烈な勢いで増殖して高い発酵熱(60℃〜70℃以上)を発生させます。 - 全幹材・丸太(木質部):C/N比 約120〜180
木の幹の中心部分は、ほとんどがセルロースやリグニンといった強固な炭素の塊であり、窒素はごくわずかです。微生物にとっては「パサパサで栄養不足な食事」であり、増殖スピードが遅く、発酵熱も上がりにくくなります。

第7回のデータで「枝条由来のチップは温度上昇が大きく、全幹チップは温度上昇が控えめ」という結果が出たのは、まさにこのC/N比の違いによるものです。
「品質」と「乾燥方法」の選定
C/N比が低い(枝葉が多い)チップは、発熱量が高く急速に乾燥が進みますが、同時に有機物の分解も進みやすいため、目減り(有機物損失)や灰分の増加といった品質低下のリスクも孕んでいます。一方、C/N比が高い(幹材中心の)チップは、乾燥には時間がかかりますが、分解されにくいため燃料としての純度(低灰分)は高く保たれます。
自社で取扱う原料のC/N比と物理的な特性を意識した運用を行うことで、乾燥方法に発酵熱を用いるのか外的な熱を用いるのかを検討することが重要になります。
まとめと次回の予告
第8回では、乾燥効率の裏にある「C/N比」と微生物のメカニズムを解説しました。木質チップは単なる木の欠片ではなく、微生物が息づく「生きている山」です。彼らの生態を理解することが、適切な運用設計へと繋がります。
次回の第9回は『【実証データ】:水分推移グラフから見る乾燥スピードの客観的評価』です。透湿防水シートを用いた乾燥が、実際にどれほどのスピードで進むのか。これまでの理論を裏付ける実際の水分推移グラフをもとに、客観的なデータ評価をお届けします。
※本記事は、令和3~5年度 林野庁補助事業「地域エコシステム」技術開発・実証事業の成果報告に基づき構成されています。

